【editorial】旅の恥は書き捨て #3
カツアゲ編

CATEGORY | 日記
POSTED | 2017/11/19
オンボロ車の中ではどうやら協議の上、結論が出たようだった。
運転手のローバート・カーライル似の男は、交渉に納得いかないが渋々条件を飲み込むデニーロのような小芝居を一つ入れてから、
口元をへの字に曲げてタック・タイラーに「OK」 と一言だけ言い放った。

「OK?」
どういうこと?100ポンドでビデオカメラ買うの、俺?

嬉しいんだか、切ないんだかわからず、とりあえず財布の100ポンドを取り出そうとした。

「じゃあ、ビデオカメラをこの袋に入れるからな。」

とロバート・カーライル似の男は言い捨て、ビデオカメラを足元の皮のポーチに入れようとかがみ込んだ。

「本当にもっとないのか?もう一度財布を見てみろ。」丸刈りの頭が振り向いてドスを効かせた声で凄んだ。

「えー本当にないと思います。すいません。」

タイラーはカツアゲされている中学生のように、ちびりそうになりながら、もう一度財布の中身に視線を落とした。
10年以上英語圏での生活をしていたが、こんなにどきどきすることは初めてだ。まるで自分が、良からぬ取引に手を染めているかのように思わせるのはこのオンボロ車にせいだろうか?ロバート・カーライルのせいだろうか?

「やっぱ、ないです。」

ロバート・カーライル似の運転手は乱暴にビデオカメラを入れた皮の袋をタイラーに渡すと、むしり取るようにタイラーの手元から100ポンド札を奪い取った。
次の瞬間、オンボロ車はとてつもない騒音を立て、煙を吐きながら閑静な住宅街の坂道を爆走して行った。走り去る車中でトレインスポッティングの連中が奇声を上げたようにも聞こえたが、ガタガタのサスペンションの音かもしれない。
場違いな騒音がハムステッドの街に響いていた。
ずっしりと重いビデオカメラを手に、タック・タイラーは 日本から持ってきた小さな折りたたみ傘で小雨を凌ぎながら、昂ぶる胸を抑えようとしていた。
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