部長の挑戦 ドローン編 失策

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POSTED | 2017/10/22
    ワイマナロの紺碧の海から吹く凪に揺られながら部長はハイウエィを西に、意気揚々とレンタカーを走らせていた。ハイウェイといってもこの辺は両側一車線しかない、ただの国道になる。ここはローカルドライバーによって自然渋滞がよく発生する場所だ。この日も、長年の海の潮で錆びついた一台のポンコツ車が、のんびりと部長のレンタカーの前を走っていた。ここはハワイ。路肩にはみ出して抜いて行くやつはいない。クラクションもなし。もちろん、よそ者の部長も安全運転だ。アクセルに足をかけたまま、片手で足の砂を払った。
    ふと時計に目をやると、目の前のノロノロ車をどこかで追い抜かないことには、部員達との待ち合わせに間に合わないことに気づいた。待ち合わせのカイルアまではまだかなりある。部長は時間にうるさい。人が待ち合わせに遅れることは許せる。しかし、自分が遅れることは絶対に許せない潔癖症だ。普段の仕事でも「入り時間」の1時間前に入るのは当たり前。昔、間違って渋谷のスタジオに行き、間違えに気づいて九段下の現場に急いで行っても、本来の入り時間より30分早かったこともある。そんなせっかちの部長が、この日は確実に遅刻するのを分かっていながら、全くイライラすることなく、口笛でも吹かんばかりにドライブを楽しんでいた。

    それには一つの理由があった。今朝早起きして行ったドローンの撮影に成功したのだ。部長は見事、念願のサンディービーチでドローンを上げた。小型カメラにはその映像がちゃんと録画されていることも確認した。しかも、天候は快晴。コントローラのモニターには、朝焼けに輝く紺碧のハワイの海がこの世で唯一、部長だけにその姿を恥ずかしげに見せていた。その映像を納めた小型カメラは今、運転席の部長の両足の間の最も安全なところに確保され、部員達に披露される時を待っていた。みんなのリアクションが眼に浮かぶ。はやる気持ちを抑えながら、部長は気持ち威圧的に車間距離を縮めてみた。

    カイルアに到着すると部員達は休憩中だった。彼らは午前中の撮影メニューをこなし、満面の笑顔で「いいの撮れたよー」と嬉しい報告。そっちはどうだったと聞かれ一瞬、心を落ち着かせてから「いいの撮れたよー」と部長は同じ返事を返してみた。小型カメラをいじくりながら「みて見る?」なんて気を持たせるふりをかまして、部長は大きな指で小さなボタンを懸命に何度も押した。小型カメラはピピッと音を鳴らし、小さな画面に録画一覧のページを表示した。空撮に成功したのは一回だがそれまでに何度か失敗した映像も記録されている。

    実はドローン撮影はかなり苦戦した。ドローンは飛んでも録画モードにならなかったり、ドローン本体がカメラを認識しなくて映像が届かなかったり、問題は一つではなかった。しかし早朝のサンディービーチで部長は諦めなかった。かつてあのチャーチルが言ったように 「never never never give up」だ。その精神のおかげで、バッテリー残量も少なくなった最後のチャンスで見事、機械の伝達がうまく行って撮影に成功したのだ。虫のようなドローンが大海原を翔て行く後ろ姿に込み上げるものを感じながら、モニターに映し出されるビューティフォーな映像に心踊った。帰還したドローンから小型カメラを取り外して映像をチェックしてみた。撮れてる。完全に撮れてる。「チェックオッケー!」海に向かって遠慮なく叫んだ。


    「あれ?」


    カイルアアイスクリームを舐めながら部員達が私を見つめている。あったんだよさっきまで。確認したんだって。マジで。ない。無い。ない! 失敗カットは記録されてているのに、成功カットだけがない。なんで?どうして?why?  怒りでもない、悲しみでもない、行き先不明の感情が込み上げて来た。言い訳をするわけではないが、日本で練習した時もそんなことがあった、芦ノ湖でドローンを飛ばした時、ちゃんと録画モードになってREC ボタンは点滅してたのに、後で見ようとすると録画されていないという事があった。そんな言い訳を半分がっかりした表情の部員達にこぼしながら、何度見ても現れることのない成功カットを探していた。理由は分からないが、一度録画されていたものが消えていたのだ。それも一番大事なやつが。

    帰りの車中、部員達から非難の言葉はなかった。チームメイトはPKを外した選手を決して非難することはない。皆、同じ戦いをしているのを知っているからだ。しかし、ただでさえ時間のないスケジュールで、無理をしてもらっている部員達に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
    午前中の時間を全て台無しにした部長はハンドルを握りながら、その存在意義を自らに問うていた。ここで負けるわけにはいかない。右手の親指の傷も疼いてきた。部員達の泊まるコンドミニアムの入り口に入る時、部長はいつもより慎重にハンドルを切った。

     <続く>
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